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京都大学法科大学院(法学研究科 法曹養成専攻)

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平成19年度入学式式辞

                             法科大学院長  村中 孝史 

 本法科大学院は平成16年4月に開校し、今年は4期生として、未修者59名、既修者144名の総計203名の新入生を迎えることができました。皆さんが京都大学法科大学院を研鑽の場として選択されましたことを、大変うれしく思います。
 ご承知のとおり、法科大学院制度は司法制度改革の一環として導入されました。社会の様々な分野に「法の精神」が浸透し、自由で公正な社会が実現されるには、それを支える人材が必要です。しかしながら、そうした人材の中心となるべき法曹の養成は、従来、司法試験の合否を基本として行われ、法律家になるための教育課程というものは存在しませんでした。このことは、どの学部で勉強していても、また、大学を卒業していなくとも、司法試験に合格しさえすれば、法曹への道が開かれるということを意味します。この点をとらえ、開かれた制度であると積極的に評価する見解もありますが、他方、試験による選抜には限界があることも否めません。
 単に一定量の知識の存否を確認するのであればともかく、法律家にとって一番大切な能力は、法的な思考により問題を解決する能力であり、このような能力を一回の試験で試すことは容易ではありません。とくに、司法試験が資格試験であるべきにもかかわらず、最初から合格者数が決められてきたため、こうした試験による選抜は、受験技術的な準備をする者を増加させることとなりました。その結果、試験のあり方をどのように工夫しても、法的思考の能力を確認することが十分にはできず、何より、ほとんどの受験生が、法的思考の修得を目指す学習をせず、ただ、試験に出題されそうな判例や学説をひたすら憶えることに集中するという、まことに嘆かわしい状況が生まれるに至りました。
 法律家の養成がこのような状況のままでは、司法制度改革が進むわけはなく、まさにこのような状況を打破して、真に法的思考を身につけた人材を養成する制度が必要であると考えられ、そこから生み出されたのが法科大学院制度です。そこでは、学生が、法律家に必要とされる法的思考を身につけることができるよう、教育課程が効果的に編成され、また、教育方法の点でも、従来の法学部における大講義を中心とする方法ではなく、教員と学生、また、学生相互間における討議による少人数教育を中心とする方法が採用されています。学生は、このような教育課程を経ることにより、効果的に法的思考を身につけてゆくことができます。また、大学側は、教育課程を通じて、学生の法曹としての適性を、時間をかけて緻密に評価することが可能となります。法科大学院の修了認定は、まさに、法的思考を身につけ、法律家たるに相応しい人材であると大学が認定することに他なりません。また、それだけに、その判定のための成績評価は厳格に行われるべきものであり、入学した以上は卒業できる、というものではありません。私ども教員は、皆さんが法律家たり得る能力を獲得できるよう、最大限のお手伝いをしたいと考えています。しかしながら、中には、適性を欠いたり、また、能力獲得までに非常に長い時間を要する人がいるかもしれません。その場合、私どもは、能力が獲得されるまで、修了を認めることはできません。
 皆さんの中には、たとえ法科大学院を修了しても、司法試験に合格しなければ意味がないではないか、結局は司法試験の合格がすべてではないのか、とお考えの方もおられるかもしれません。しかしながら、司法試験で問われるのは、結局のところ、法的思考の能力が身に付いているかどうか、ということであり、これは法科大学院の教育が目指すものに他なりません。本法科大学院での教育課程は、法的思考の修得をもっとも効果的に行いうるようにと、私どもが考えたものです。このプログラムに積極的、且つ主体的に取り組んでいただくことが、法的思考の力を身につける早道であると思います。
 さて、本法科大学院の特徴について、もう少しお話ししておきたいと思います。本学の法学研究科・法学部は明治32年の創立であり、100年を超える伝統を有していますが、長年にわたり、自由で批判的な精神を重んじ、原理的・基礎的な理論研究に力を注ぐとともに、多くの優れた人材を、社会の様々な分野に輩出してきました。法科大学院でも、この伝統を踏まえて、法制度に関する原理的・体系的な理解と緻密な論理的思考能力の涵養を行い、社会のどのような分野においても、指導的な地位に立ちうるような人材を養成したいと考えています。このような人材には、未知の問題に対する解決が常に求められますが、そのためには、高度な理論能力に裏付けられた創造力豊かな思考が不可欠です。本法科大学院では、学生と教員が真剣に向き合う中で、理論的な討議を通じてそうした能力の涵養にとくに努めています。
 もちろん、こうした理論能力の涵養は、現実社会から遊離した理論の遊戯を意味するものではありません。法律学の理論は実務の中において生きているものであり、そのことを無視することは許されません。ですから、本法科大学院においては、リーガル・クリニックやエクスターンシップなどの臨床系科目だけでなく、多くの実務家の先生方の協力を得て、弁護士実務の基礎、裁判演習、事例演習などの科目を充実させることにより、理論と実務との関連について皆さんが理解を深めることができるように配慮しており、本年度からは、実務家の先生による少人数教育をさらに充実させる科目設定をしています。実務の現場で生じる様々な問題を検討することで、実践的な理論能力を高め、創造力豊かな思考を身につけていただきたいと考えています。
 法科大学院での勉強は分量も非常に多く、また、内容的にも高度なものであり、一人ではなかなか前に進めないことも多いのではないかと思います。相手の考えをよく聞き、自分の考えをぶつける中で、理解を深める、という機会を、授業の外においてももっていただきたいと思います。そうした営みこそが、実は法律家としてもっとも重要なことではないか、と思います。皆さんは、縁あって同期生となられました。この機会をぜひとも生かして、人生をより豊かなものにしていただきたいと思います。
 皆さんは、わが国社会に法の精神を浸透させる重要な役割を担っておられます。弁護士、検察官、裁判官として、わが国の司法を担っていただかねばなりません。しかし、また、法律学の教育・研究という重要な課題を背負うのも、皆さんの役目です。私どものような研究者は、皆さんの中から育っていただかなくてはなりません。皆さんの中から、私どもの仕事を引き継がれる方が現れなければ、法科大学院制度は立ちゆかず、皆さんの後継者を養成することはできませんし、何より、わが国の法制度や法律学の発展を望むこともできなくなります。
 多くの皆さんは、法曹を目指して法科大学院に入学されたことと思います。しかしながら、法的思考を身につけた人材を求めているのは法曹界ばかりではありません。政界、官界、経済界もまたそのような人材を必要としています。広い視野から社会を考察し、時には、自分の進むべき道を再確認することも大切です。
 皆さんが研鑽を積まれ、高い志をもって法の理論や実務を学ばれ、法律家に求められる基礎的能力を身につけられますよう、心から期待しております。
 
専攻長(法科大学院長)の再任について

村中孝史専攻長が専攻長に再任された。任期は、平成18年4月1日から
平成20年3月31日までである。

 
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