過去の入試説明会等での講演内容からの抜粋です。身分・所属等は、とくに断りがない限り、当時のものです。

望月 康平 もちづき こうへい

梅田総合法律事務所(大阪)

平成21年入学 (未修)/ 平成24年修了
京都大学農学部 卒 / 京都大学大学院地球環境学舎博士課程 修了(地球環境学博士)

弁護士の仕事と
ロースクールで
得られるもの

自己紹介

私は農学部の出身で、学部卒業後、大学院の修士課程で2年間、環境問題の研究をした後、さらに博士課程で3年間、とりわけ廃棄物問題の調査・研究等をしていました。その中で、裁判所に調査結果に基づく意見書を提出したこと等もあり、現実の環境問題を解決するには、科学的調査だけでなく、法的な問題に取り組むことも必要だと思い、ロースクールに入りました。

私が現在所属しているのは、弁護士約20人の大阪市内の事務所です。企業法務から一般民事事件、刑事事件まで幅広い案件を扱っています。

自分の専門である環境分野の仕事としては、事務所内の業務では企業の廃棄物関係の契約書のチェック等、個人事件としては廃棄物最終処分場に関する公害調停で周辺住民の代理人を務める等の活動をしています。

私の仕事紹介

具体的に仕事の内容をイメージしてもらうために、私のある1日のスケジュールをご紹介します。8時に起きて9時に事務所へ。裁判の期日に行き、帰ってきて所内で昼食を食べながら会社法の勉強会。雑務のあと尋問の準備、18時から新件の相談、20時頃から午前中の裁判期日の報告書や新件の受任通知を起案して、22時23時くらいに帰る、という感じです。

普段どのようなことを考えて仕事をしているのか、参考のために、この日の18時の新件相談の事例をデフォルメして紹介します。

定年退職した68歳の男性が、「先生聞いてください、いきなり大家さんが家から出ていけと言うてきましてん」と。事情を聞くと、「2年前から今の借家に住んでいる。1階で子どもを集めて塾をやっている。借りる時に不動産の仲介業者に、『塾をやるからそれ前提で貸してください』と伝えていた。ところが大家さんは、『そんな話は聞いていないし、契約書上も居住目的限定になっている、塾をやるのは契約違反だから出ていけ』、と。どうしたらいいですか」という相談です。

この話を聞いて、弁護士としてどのようなことを考えて事件処理にあたるか、ここでは、3つの視点から説明します。

第1の視点として、当然、まずは法律論・要件事実論に基づいて考えます。「大家さんは、『債務不履行(用法違反)による賃貸借契約の解除』を主張しているのだろう。それに対して依頼者は、『塾として使用することの承諾』があったと反論しているのだろう。さらに、塾といっても、1階で子ども達に勉強を教えているだけとのことなので、いわゆる『信頼関係破壊の法理』も問題になりそうだ。手続論としては、『建物明渡等請求訴訟』、あるいは『賃料増額請求調停』も問題になる可能性がある」。このように、法律論・要件事実論に基づいて事案を分析するのがロースクールで学ぶことであり、司法試験でも問われる不可欠な能力です。

第2の視点として、司法試験後の司法修習では、「事実認定」について、より詳しく勉強します。「大家さんは契約書に『居住目的限定』という記載があると主張しているようだが、依頼者は『仲介業者に塾をする旨伝えた』、と言っている。ではどういう事情があれば、大家さんが『承諾した』という事実を裁判所が認定してくれるか。また、塾としての使用態様について、どのような事実をどう評価したらいいのか」。このようなことも考えます。

第3の視点として、司法修習後、実務に出ると、「証拠収集」についても考える必要があります。「相談者の話には出ていないが、賃貸借契約締結の際の『重要事項説明書』に塾について記載があるか、仲介業者は味方になってくれそうか、味方につけるためには、いつ、どのように話を持っていけばよいか」。このような実務的な視点も必要になり、証拠収集のためには、コミュニケーション能力も問われます。

以上のように、弁護士として仕事をするにあたっては、ロースクールで学ぶこと(法律論・要件事実論)や、司法修習で学ぶこと(事実認定)が必要になるのはもちろん、実務を通して学ぶことも含め、自分が持っている力を総動員して、様々な視点から事件処理にあたる必要があります。

このため、弁護士登録した後も、日々、ボス弁をはじめとした諸先輩方からの指導を受けながら、研鑽を積み続ける毎日です。

ロースクールで得られるもの

このような様々な視点を持つためには、論理的思考力や調査能力といった基礎的な能力が必要です。しかし、先ほど紹介したスケジュールを見てもわかるように、弁護士の業務をしながら、基礎的な知識・能力を身につけるための時間を捻出することは、現実問題としてとても難しいことです。それをやれるのが、ロースクールだと思います。

ロースクールでは、最先端の研究をされている教授陣、最前線で活躍されている実務家が、双方向授業を行っており、参加している学生も高い志を持った人ばかりです。そういう授業に参加し、予習復習に必死に取り組む過程で、論理的思考力や調査能力が磨かれますし、自主ゼミで友人と一緒に勉強することで、コミュニケーション能力の向上にもつながります。

私は法学未修者出身ですので、この点についても触れておきたいと思います。未修者にとって、ロースクールで要求される勉強は確かに厳しいです。途中で挫折していく人もいました。考えてみれば、既修者が法学部4年間+ロースクール2年間で勉強するのを、半分の時間でやろうとするのだから厳しいのは当たり前です。しかし、しっかり頑張れば、得られるものは非常に大きいと思います。特に、厳しいことを一緒に乗り越えてきた仲間は、一生の宝になっています。就職するときも、また、就職後も、未修出身だということが不利になることはありません。私の同期でも、未修出身で、裁判官になった人、いわゆる四大事務所に行った人、外資系の事務所で活躍している人、法テラスに所属して過疎地域で活動している人、知財のブティック系の事務所に入った人、企業内弁護士として活動している人等、ロースクールの自習室で一緒に勉強し、試験のあと飲み会をした仲間たちが、様々な形で、最前線で活躍しています。

以上のように、ロースクールでは、大変貴重でかけがえのないものを多く得られると思います。

(平成28年6月25日)