法科大学院について

京都大学法科大学院について
法科大学院長 酒井 啓亘
京都大学法科大学院のホームページにお越しいただき、ありがとうございます。本法科大学院は、2004(平成16)年、司法制度改革の柱の一つである新たな法曹養成制度の中核を担う教育機関として開設され、以来、「法の精神が息づく自由で公正な社会の実現のため、様々な分野で指導的な役割を果たす創造力ある法曹を養成すること」を教育目標に掲げ、今日まで歩んできました。この間、多くの優秀な学生を受け入れて、我々が提供できる最大で最高の教育資源により鍛え上げ、社会へと送り出してきました。司法試験の合格者は既に2000名を超えており、日本の法曹養成において大きな実績を挙げています。
教育機関としての本法科大学院が常に心掛けていることの一つに、入学者選抜における公平性・開放性・多様性の重視があります。特に法学以外の学問分野を専攻された方や社会人としての経験を積まれた方など、多様な背景を有する学生を受け入れるため、その時代ごとの要請に対応する新たな措置を積極的に取り入れてきました。2017(平成29)年度入学者から導入した口述試験等による法学未修者特別選抜試験はその一例で、口述試験は京都だけでなく東京においても実施されています。他方、法学既修者についても、法学部3年次生出願枠(3年次飛び入学)の制度を2016(平成28)年度入学者から、さらに2022(令和4)年度入学者からは、いわゆる法曹コースを修了し法学部を3年で卒業する見込みの者より選抜する「5年一貫型教育選抜」の制度をそれぞれ開始し、優秀な学生が早期に法曹になることができる途を開いていきました。
また、公平に選抜され、多様性をもった優秀な学生を、法曹としての基礎を作るべく徹底して鍛え上げることも、本法科大学院の特徴です。本法科大学院では討議を重視した少人数教育を提供しており、法学の分野で優れた業績のある研究者教員と受講者との間でソクラテスメソッドによる真剣勝負のやりとりが交わされます。また、本法科大学院では、法制度に関する原理的体系的理解と論理的思考能力を涵養することを目的として、さらには理論と実務の架橋を目指す観点から、法適用の現場で豊富な経験を積んだ実務家教員による実務基礎科目、法的問題の背景にある社会構造や歴史について学ぶ基礎法学・政治学に関する科目、最先端の法律問題に取り組む能力の獲得をめざす先端・展開科目が数多く提供されています。本法科大学院は、これらの授業を通じて多様な専門性と総合的な能力の向上を目指し、司法試験合格を目標とすることはもちろんですが、さらにその先を見通した法曹養成教育を実施しているということをぜひご理解ください。
法曹としての素養は授業においてのみならず、友人との議論を通しても磨かれます。本法科大学院では、授業後の教室、有志の学習会が開かれる演習室などで熱心に討論する学生の姿が見られます。教育資源の提供において新型コロナウイルスの影響があることは否定できませんが、本法科大学院は、その感染拡大防止のため最善の措置をとり、学生が自由闊達に議論できるような環境をできる限り整備してきました。しかし、本法科大学院の学生が自主的・積極的に議論を行うのは、まさに「自主・独立の精神と批判的討議」を重んじる京都大学の伝統ゆえといっても過言ではありません。他の大学の法科大学院ではなかなか見られないこの活発な「自学自習」こそが本法科大学院の最大の特徴であり、本法科大学院の修了者が法曹界で活躍している原動力であると自負しています。
京都大学に対しては自由放任というイメージを持たれる方が多いかもしれません。確かに、本法科大学院は学生の「自学自習」を最大限に尊重しています。しかし、同時に、学生のニーズや現在の学力に配慮した丁寧な指導も行っています。とりわけ、法学未修者に対しては、比較的単純な法文書を起案して添削を受けることのできる授業や一般的な学習相談の機会を通じて、法的なものの考え方や文書の書き方が身につくように訓練し、法学既修者のレベルに早く追いつけるように手厚い学習支援体制を敷いています。
法制度に関する原理的・体系的理解、緻密な論理的思考能力、法曹としての高い倫理的責任感、そして先端的問題の解決に取り組む総合的な法的能力を身に付けた多くの修了者を社会に送り出していることもまた、本法科大学院の大きな特徴です。2020(令和2)年度までの本法科大学院の修了者は2519名を数え、そのうち2004名が司法試験に合格しており、累積合格率は79.56%に上ります。司法試験の合格者数は、法科大学院が法曹となる人材を社会に送り出す重要な貢献を表す指標の1つですが、本法科大学院においては、さらに合格の先を見通した教育の成果として、修了者が法実務の様々な場面に進出し活躍して高い評価を得ていることを指摘したいと思います。本法科大学院は、学生・修了者が活躍の場を適切に選択できるようにするため、「進路懇談会」を開催して法律事務所、民間企業、検察庁、中央省庁などの進路に関する生きた情報を提供するとともに、裁判官を志望する学生にもその仕事を知る様々な機会を提供しています。
さらに、本法科大学院からは多くの法学研究者を輩出していることも特筆すべきことといえます。法学の研究を志望する法科大学院の修了者には、京都大学大学院法学研究科法政理論専攻の博士後期課程に進学する途が開かれるとともに、進学後には奨学金の提供や図書費・外国語研修費の補助などの手厚い経済的支援が用意されています。これらの方は、法学の研究のほか、将来の法科大学院生、法学部生等の教育に従事していくことになります。博士号を取得し、助教を経るなどして大学の研究職に就任した方は既に50名程度を数えるに至っています。
京都大学法科大学院は、法曹養成の一端を担う教育機関としての使命を果たすべく努力を続けて参りました。これからも現状に甘んじることなく、不断に自己を見つめ直し、よりよい教育の提供、優れた法曹の育成に向けて改善を進めていく所存です。
多くの優秀な方々が本法科大学院を法曹への学舎とされることを期待いたしますとともに、本法科大学院を修了された方々のほか、さらに広く、法理論、法実務、法曹養成に関心をお持ちの方々におかれましては、本法科大学院の活動をときに厳しくときに温かく見守り、ご支援いただけることを、心より願いつつ、ごあいさつとさせていただきます。