このページでは、京都大学法科大学院で行われている授業のいくつかについて紹介します。

基礎科目

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刑法の基礎1・2基礎

刑法とは、犯罪と刑罰の内容を定める法律です。刑法を具体的な事件で適用するための手続を定める刑事訴訟法とのセットで、刑事司法を実現します。本法科大学院では、1年次前期に「刑法の基礎1」と「刑事訴訟法の基礎」、1年次後期に「刑法の基礎2」を学び、2年次の基幹科目「刑法総合1・2」「刑事訴訟法総合1・2」につなげます。

科目としての刑法のうち、一般に、殺人罪や窃盗罪などの個別の犯罪類型の相違にかかわらず共通してあてはまる原則を扱う部分を「刑法総論」、個別の犯罪類型ごとの特徴を学習するものを「刑法各論」と呼んでいます。「刑法の基礎1」は、刑法総論にあたる内容の大部分を対象とします。「刑法の基礎2」は、刑法総論のうち「共犯論」と「罪数論」、および、刑法各論の内容を扱います。刑法の適用に関する基本的知識と解釈論の技術を修得し、「刑法総合1・2」でのより深い議論のための基盤を構築することを目的としています。

授業は双方向形式で行いますが、1年次ではまだ知識や法理論への理解が十分ではありませんので、まず、従来の判例や学説の基本的な内容を確認していく作業が中心となります。刑法は、法科大学院で学習を求められる範囲が他の科目と比較して狭い上に、伝統的な三段論法に従った解釈・適用がルールであるため、ある意味、コツをつかんでしまえば習得しやすい科目です。この三段論法とは、大前提となる「判断基準」をうち立て、それに小前提である「事実関係」をあてはめることによって、「結論」を得るものです。たとえば、「正当防衛は急迫不正の侵害に対してしか認められない」という前提で、「すでに侵害は終了している」という事実があれば、「正当防衛は認められない」という結論になります。

刑法上の問題解決にあたっては、第1に、この「基準」の内容に争いのあることが多いので、従来の判例・学説をしっかり学習することが必要になります。ある程度、覚えなければならない事項もあります。第2に、与えられた事実関係を正確に理解することも意外に難しく、練習を要します。第3に、読み取った事実を基準にあてはめる際に失敗してしまうケースもありますので、この点についても注意力や応用力の涵養が求められます。いずれも習得までの訓練はそれなりに大変ですが、次第にわかってくると、新しい問題に直面しても、アプローチの方法が見えてきて、リーガルマインドが身に付いたと感じられるようになるでしょう。

民事訴訟法の基礎基礎

人が社会で生活をするなかでは、他の人との間で法律的な関係が頻繁に生じます。売買、賃貸借、雇用等の契約、交通事故等の不法行為、婚姻、相続等の家族関係などです。そのような関係をめぐって人と人との間に紛争が発生した場合、それらを適切に解決するための仕組みが必要となります。その仕組みにおいて、民法などの実体法は、解決の内容の基準となります。一方、民事訴訟法をはじめとする手続法は、紛争を公正かつ迅速に解決するための手続を定めています。そして、民事訴訟法は、裁判所で民事上の権利義務に基づいて紛争を解決する民事訴訟の手続を規律する法です。

「民事訴訟法の基礎」は、1年次生が、民事訴訟の第一審手続を中心に、民事訴訟手続の概要について基礎的な理解を得られるようにすることを目的としています。当事者や訴えとはどのようなものか、訴訟手続はどのように進められるか、裁判所の判決にはどのような効力があるかといった事項を取り扱います。授業では、あらかじめ提示された問題に基づく双方向・多方向形式と教科書や配付資料に基づく講義形式とを併用します。

この授業は1年次後期に配当されており、前期の授業で憲法や民法について基礎的な知識を修得していることを前提に授業を進めます。そのことから、前期に学習したことの復習の機会ともなります。また、2年次の「民事訴訟実務の基礎」、「民事訴訟法総合1」、3年次の「民事訴訟法総合2」といった基幹科目の学修をするために必要な基礎的理解が得られるように、これらの基幹科目の授業とのつながりをも意識した授業としています。

民事訴訟を中心とした民事紛争の解決は、質・量ともに、法曹の仕事の重要な部分を占めています。学生の皆さんには、この「民事訴訟法の基礎」でその基礎固めができるよう、授業にしっかりと取り組んでくださることを期待しています。

法律基礎科目演習基礎

法曹養成のための教育においては、法的知識を修得するだけではなく、修得した法的知識を紛争解決のために活用する方法を学ぶこと、より具体的にはそのような紛争解決のための文書(「法文書」といいます)を作成するトレーニングを繰り返し行うことが、重要となります。というのは、紛争解決においては、一般抽象的な法的知識と個別具体的な紛争事案との間で視点を往復させつつ、この知識を法律学独特の論理(法的三段論法など)にそって用いるという、法的知識の特殊な整理方法・展開方法(「法的思考」といいます)を基礎にして、法文書を作成することが、求められるからです。しかし、未修者の皆さんには、この法文書作成の実践を通じて法的思考を学ぶ機会が欠けています。そこで、この科目では、法科大学院の授業や予習復習で学んだ法的知識に照らし、法文書の作成を通じて、法的思考を学びます。

この科目で重視されるのは、実践を通じて、そうした法的思考を習得することです。つまり、この科目では、法科大学院の各基礎科目で学ぶ法的知識を基礎にして法文書に展開するための法的思考を、法文書への起案作業を通じて、実践する機会を得ることになります。

この授業では、起案形式と講評形式の組み合わせにより授業を行います。具体的に、まず起案形式の授業では、基礎科目と関連した分野に関して、研究者教員から提示される紛争事案を法的に解決する法文書の起案が行われます。そして、この起案形式の授業で作成された法文書は、実務家による添削が行われます。この法文書は、講評形式の授業の前に、各受講者に返却され、受講者は起案の基となった紛争事案と添削を見比べて各自復習した上で、研究者教員による講評形式の授業に臨むことになります。このように、この授業では法文書作成を通じて、研究者教員の示す紛争事案・講評と実務家からの添削を対比する機会を得ることで、法的思考を基礎にした理論と実務のつながりを意識することができます。

以上のように、この科目では、各基礎科目の授業で学んだ法的知識を法文書の作成へ向けて展開する上で基礎となる法的思考を学ぶことになります。ただし、法的思考は、こういった法文書作成のみと関わるわけではありません。たとえば、教科書や判例集のどの点に注目し、どのように法的知識を整理・更新すれば法文書へと展開できるかという法的知識の学習方法にとっても、法的思考は基礎になっています。そして、法曹は法律や社会の変化に対応して新たな知識を整理・更新することが求められる以上、法的思考に基づいて体得される法的知識の学習方法は、卒業後も引き続いて役に立ってゆきます。この科目の履修により、未修者の皆さんがそうした法的思考の基礎を身につけることができるよう期待しています。

基幹科目

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公法総合3基幹

この科目は、憲法判例や事例課題の検討を通じて、基本的人権の保障と憲法訴訟に関する問題を総合的に考察するものです。

この科目では、1年次の基礎科目「人権の基礎理論」や法学部の憲法の授業で学んだ基本的人権に関する基礎的な知識と公法総合2で深めた司法権に関する基礎的な知識及び憲法訴訟に関する技法を、裁判例等の具体的な事例への適用・分析を通じて、活用できるようにすることを目指します。

授業は、ケースブックなどを用いた双方向形式で行い、それによって、判例や学説の理解をより深めるとともに、そのような理解を新たな事案の処理にどのように応用するかについて考察することに努めます。また、授業の後に示される復習課題に取り組むことによって、自らの考えを説得的に書く能力を高めて欲しいと考えています。

さらに、違憲審査においては、審査の対象となる法律が属する法領域に関する知識などを活用することも求められます。憲法は、国家の基本法として、比較的早い段階で学ばれることが多いのですが、法令等の違憲審査を適切に行うことは、法律学の学修のまとめとしての意味もありますので、3年次の前期の段階で、皆さんがこの科目に熱心に取り組まれることを期待しています。

刑事訴訟法総合2基幹

刑事訴訟法は、犯罪と刑罰を定めた刑罰法令を具体的事件について適用・実現するための手続を規律する法領域です。この科目は、そのうち公訴提起(起訴)以降の手続(訴因制度、証拠法など)を扱うものです(起訴前の手続つまり捜査手続については、2年次前期の「刑事訴訟法総合1」で扱います)。

「刑事訴訟法総合1」とともに、この科目では、1年次の基礎科目「刑事訴訟法の基礎」や法学部の刑事訴訟法の授業で修得した、刑事手続に関する基礎的な知識や基本的な諸制度・原理の理解を、裁判例等の具体的な事例への適用・分析を通じて、「生きた」ものにすることを目指します。取り上げる項目は、網羅的ではなく重要なものにしぼり、理解をより深く「掘り下げる」ことに重点を置きます。

授業は徹底した双方向形式で行います。裁判例等にたくさんの問いを付けたケースブックという教材を使いながら、教員と学生の間で問答を繰り返すことによって、当てられた学生はもちろん、周りの学生も、自らその場で思考を重ねていきます。そうして、判例や学説の論理の構造や射程を、具体的事案の文脈に照らして深く理解できるようになります。

「刑事訴訟法総合1」やこの科目では、具体的事例における分析・適用も十分に意識しつつ、刑事訴訟法に関する理論的思考能力を深めることを重視しています。その後、3年次には、実務家教員が担当する刑事実務系科目(「刑事訴訟実務の基礎」など)の中で、より実践的な能力・スキルを学んでいくことになりますが、その際、基礎的知識やそれを踏まえた理論的思考能力を2年次までにしっかりと修得していることは不可欠です。

昨今、裁判員制度の導入や、世間の耳目を集める事件の影響などもあり、刑事手続に対する国民の関心は高まっていると思います。そのような中で、(弁護士であれ検察官であれ裁判官であれ)法律のプロが、一時の風潮に流されることなく、しっかりとした理論的基盤の上に立って、刑事手続を適切に運用していくことは益々重要になってきています。この科目の履修により、皆さんがそうした能力を身につけることができるよう願っています。

民法総合3基幹

民法は、私法分野の基本法であり、私人(個人・会社など)間の権利・義務関係に関する一般的なルールを定めています。民法に関して、2年次以降の基幹科目では、「民法総合1~3」を、順次、履修することになります。これらの3科目は、現実の法的紛争の場面を意識して、民法典の体系とは異なる区分としています。2年次前期の「1」では契約の成立や履行に関して、2年次後期の「2」では原状回復や民事責任に関して、3年次前期の「3」では債権の保全・回収・担保に関する法律問題を取り上げます。「民法総合3」が扱う問題は、金融取引や企業法務の領域で極めて重要な意味をもちます。

本法科大学院の民法のカリキュラムは、2年次前期の段階で「民法総合1」と実務基礎科目である「民事訴訟実務の基礎」とを同時に履修するところに特色があります。「民法総合1~3」の授業では、「民事訴訟実務の基礎」の授業内容とも有機的に連関させつつ、訴訟における原告や被告の主張の組み立て方を強く意識した授業を行います。「民法総合3」では、さらに、訴訟の外にも視野を拡げ、戦略的・予防法学的視点も取り入れた内容の授業としています。

授業の方式は、「民法総合1~3」で共通しており、いずれも双方向・多方向形式によります。毎回の授業ごとに、現実にも登場しそうな長文の設例による課題が与えられ、学生は、各自で入念に準備をしてきます。授業では、教員が学生を指名して問答を繰り返すなかで、学生の理解が足りない点を浮かび上がらせ、さらに思考を重ねることを求めます。

民法の条文数は非常に多く、また、制定から120年にわたる判例・学説の蓄積が豊富である上、2017年には債権法について大きな改正も行われました。「民法総合1~3」で課題とされる設例をもとに、民法上の諸制度やルール(条文や判例)がどのような利害対立をどのように調整するものであるのか、それが理論的にどのように整序されるのかを、粘り強く考え抜く中で、学生の皆さんは、必ずや、各制度や条文について正確かつ深い理解を獲得し、実務家として現実の紛争解決・紛争予防に取り組む能力を身に付けることができるでしょう。

商法総合2基幹

商法は、営利企業が当事者となる取引や、その組織の在り方を規律する法領域です。この科目では、法的紛争が起こった際の解決(例えば、どのような判決が下されるべきか)を検討する2年次前期の「商法総合1」とは異なり、予防法学的な観点から、将来の紛争を予防し、円滑な企業取引や企業運営を実現するための視点を養うことを目的としています。

「商法総合1」と「商法総合2」では、上記のように視点は少し異なりますが、いずれも、1年次の基礎科目である「商法の基礎」や法学部の商法の授業で修得した、商法に関する基礎的な知識や基本的な諸制度・原理の理解を、過去の裁判例や企業が実践するプランニングの実例を分析し、具体的な事例にどのように適用しうるかを考察することを通じて、実践力のある知識にしていくことを目指します。取り上げる項目は数を絞って厳選し、理解を深化させることを重視する一方、適宜、新しい素材と入れ替えることを通じて、変化に富んだ実社会の需要に応えることも視野に入れています。

授業では、具体的な事案が掲載されている会社法事例演習という教材を用います。各事案に付された問いを出発点に、教員と学生とのやりとりを通じて、受講者全員が考察を深めていく、双方向形式が採用されています。将来起こりうる紛争を回避し、当事者のニーズに適う円滑な企業運営や取引を実現するにはどのような道がありうるかを、商法の法令や裁判例を分析し、様々な立場の利害関係者が置かれる状況について想像力を駆使しながら、探求していきます。

「商法総合1」およびこの科目の履修を通じて、具体的な事案の解決やプランニングには、理論的な思考能力が不可欠であることが実感され、またそれが修得されるでしょう。このような能力は、様々な応用先端的な科目を3年次に履修するときの土台ともなります。

企業・ビジネスを取り巻く環境は変化が激しく、新しい法的な課題も次から次へと登場します。複雑に絡みあう利害関係を解きほぐし、企業が、健全に、また円滑に事業を運営していく基盤を提供することも法制度の機能であり、その一翼を担うことは、法曹の重要な仕事の一つです。皆さんが、これらの科目の履修を通じて、そのような役目を果たすために、能力を遺憾なく発揮できるようになることを願っています。

民事法文書作成基幹

民事法文書作成とは、各種の法文書の起案を行う実習科目です。2年次前期から3年次前期にかけて、民事法(民法・商法・民事訴訟法)関係の必修科目として、民法総合・商法総合・民事訴訟法総合および民事訴訟実務の基礎を順次履修し、その中で基礎的・基本的な法的知識とその運用能力を身に付けることになります。民事法文書作成は、法律実務と関連付けてそれらの「総仕上げ」を行うものであり、2年次後期・3年次前期の通年科目とされています。

法科大学院を修了して実務家になると、日々、多くの文書を作成することになります。たとえば、法律相談を受けた弁護士であれば、依頼人から事情を聞き取り、その要望を実現するために法的主張を組み立てて、裁判所に提出する訴状や答弁書を作成することになります。その準備段階では、事務所内で、同僚や上席の弁護士と事件処理の方針を検討する前提として、関連する法律問題を検討したメモをまとめなければなりません。訴えを受けた裁判所では、事件の法的解決を示した判決を下しますし(判決書という書面です)、判決書の前段階として、裁判官同士で合議を行うにあたっても、若手裁判官が合議メモを作成することでしょう。この科目では、そういった実務家になればすぐに作成することになる各種の文書を実際に自分の手で起案するとともに、それを経験豊富な実務法曹に見てもらうことで、文書作成能力を磨きます。

具体的には、この科目では、起案と講評の組合せを、計4セット実施しています。起案において課題として示される素材は、かなりの長文であり、法的に意味のある事実とそうでない事実が入り交じっています。その中から、法的に意味のある事実を過不足なく抽出する能力が問われます。また、各回ごとに、起案する際の状況・立場が設定されており(たとえば、「法律相談を受けた弁護士の立場から」など)、その設定に応じて起案を構成することが求められます。起案の実施後は、課題を作成した教員による一般的な講評が行われるだけではなく、各人の起案について、非常勤講師(京都大学法科大学院の修了生である弁護士)による添削指導が行われます。添削では、起案の形式と内容の両面について、実務家の視点から、優れている点や不十分な点の指摘、改善方法の提案など、様々なコメントが付されます。まさに実務の第一線で活躍する優秀な先輩が、後に続く後輩のために一肌脱いで、指導に当たって下さるわけです。

この科目が、法文書作成の能力を向上させるためのよい訓練の場となることを願ってやみません。

刑事訴訟実務の基礎基幹

「刑事訴訟実務の基礎」は、刑事訴訟に携わる際に求められる実務的な知識と、既に学習した刑事実体法及び刑事手続法に関する理論的知識の実務への応用力を身につけ、刑事実務への導入の基礎を修得することを目的とするもので、正に「理論と実務の架橋」を目指す授業です。

授業は、豊富な経験を有する実務家教員が、双方向形式を基本に行います。実際の刑事事件の記録をもとに作成された事例教材等を用いて、捜査から第一審公判までを幅広く対象として取り扱います。現実の捜査はどのように進むのか、公判手続は実際にどのような流れで行われているのか、身柄拘束の問題をどう考えるか、検察官、弁護人、裁判官の立場に立って、それぞれの局面でどのように対応していくべきかなどを検討しながら、事例教材や予習問題に取り組むことによって、問題点を発見し、分析し、解決する実践的能力を培います。これまで「刑法総合Ⅰ・Ⅱ」等で習得してきた実体法についての考え方や「刑事訴訟法総合Ⅰ・Ⅱ」等で習得してきた刑事手続に関する基礎的知識・理論をどのように活用して事件処理を行っていくのか、実務の運用をイメージしつつ、これまでの学習の成果をより深化させるとともに、これまで習得した知識や理論的思考力を、現実の実務に応用可能なものにするため、その第一歩を踏み出すことができます。

また、刑事手続においては、捜査、公判準備、公判手続、証拠法、実体法、事実認定がいずれも相互に密接に関連しあって一つの制度を形成しています。具体的な事例の検討の中で、これらの関連性を意識することで、刑事手続全体についての理解を深めることができるでしょう。

その中でも、当法科大学院の刑事訴訟実務の基礎の特色としては、事実認定に力を入れていることが挙げられます。全14回の授業のうち2回を事実認定の学習に当てて、その基本的な考え方や視点等について検討していくほか、検察官の事件処理を検討するに当たっても、事実認定作業の一端に取り組みます。これは、捜査や証拠法、公判前整理手続を本当に理解するには、事実認定の基本的な考え方等を把握していることが重要であると考えられるからですが、同時に、司法修習における事実認定教育に向けての導入としても有意義なものと思われます。

裁判員裁判導入以降、刑事実務は、大きな変革の時代を迎えており、刑事手続にかかわる法曹には、実務の運用に習熟するのみならず、実体法や手続法に対する骨太の理解に基づいて、自分の頭で思考することがますます重要になっています。本授業が、その一助となることを願っております。

民事訴訟実務の基礎基幹

民事訴訟は、社会で発生することが不可避な民事上の紛争について、権利義務を確定することで解決を図ろうと設けられた手続です。そして、この権利義務は、民法等の実体法が要求する法律要件を満たすかどうか、つまり、法律要件に該当する具体的な事実が存在するかどうかで決まります。紛争に関連する事実は多種多様なものがありますが、民事訴訟の場では、権利があると主張する者は、その多種多様な事実の中から、権利の存在を基礎付ける具体的な事実を的確に抽出して、その主張・立証に尽力し、権利の存在を争う者は、その事実に反証を加え、あるいは当該権利が消滅する事情等を抽出してその主張・立証に尽力します。法律要件に該当する具体的な事実である要件事実は、このように民事訴訟の帰趨を左右するとても重要なものです。

民事訴訟実務の基礎は、この要件事実についての知識や技能の修得にまず重点を置きます。具体的には、売買代金支払請求訴訟、貸金返還請求訴訟、賃貸借契約関係訴訟等の複数の訴訟類型について、基本的な事項から理解を積み重ねて学修する予習レジュメを用いるほか、当事者双方の言い分形式を用いた具体的な事例を課題として設定します。授業では、双方向形式で、教員と学生とが「この法律要件の主張立証責任はどちらにあると考えるべきか」「当該事例において主張立証すべき事実は具体的に何か」等について問答を繰り返す中で、これまで学修してきた民事実体法の知識・理解を駆使して、訴訟物や、請求原因、抗弁等の攻撃防御の構造を意識して、要件事実を的確に抽出・整理することができるようになることを目指します。

また、要件事実と並んで、民事訴訟実務において柱となる事実認定や訴訟運営についても、その基本を習得することを目指しますので、民事訴訟実務の基礎において学修する内容は、他の実務基礎科目を学ぶ上で不可欠な基礎的知識を得ることや、民法・民事訴訟法を始めとする法律基本科目、民事裁判演習を始めとする民事の実務選択科目、展開・先端科目等を修得するための基礎を固めることにもなります。

法曹倫理基幹

この授業では、法曹(弁護士、裁判官、検察官)の職務遂行に求められる倫理について、関連する法令や個別の職業倫理(弁護士職務基本規程等)の解釈を中心として議論し、「良い法曹とは何か」を多角的に考えていきます。

法曹は、医師や宗教者と並ぶ三大プロフェッション(専門職)の一つであり、それゆえに、専門性の維持・向上と公共への使命という特別な職業倫理(法曹倫理)が要求されてきました。法曹倫理は、法曹の社会的役割の変化を反映して変遷しますが、その根幹となるのは、法の支配の理念のもと、高度の専門性をもって職務を遂行すること、これを通じて社会正義の実現を目指すという理念です。そのために、法曹倫理は特別な規範体系を構成しており、違反した場合にはサンクション(制裁)の発動も予定されています。

法曹倫理の例を挙げると、例えば弁護士倫理について、弁護士には依頼人の利益を最大化する責務がありますが、職務の公益性の観点から一定の制約が必要となるため、その根拠や範囲を、民事裁判、刑事裁判といった具体的な場面に即して検討することになります。また、裁判官は裁判官倫理として独立性、公平性、廉潔性等が求められ、検察官も公正・誠実な職務遂行等の検察官倫理を遵守すべき職務とされています。いずれも、憲法その他の法令解釈や判例等の検討を通じて、その具体的なあり方を論ずることになります。

授業では、まず、研究者教員により、司法制度改革後の社会・経済環境の変化やグローバル化を前提に、現代日本社会における法曹倫理の意義を検討します。これを踏まえて、弁護士倫理について、事例を用いた双方向・多方向の議論を行います。これを担当するのは弁護士として経験を積んだ教員であり、将来後輩となる学生を熱心に指導しています。さらに、本法科大学院では、裁判官倫理と検察官倫理について各々1回を割り当て、経験豊富な実務家による講義と質疑の機会を設けています。これは全国でも稀な取組みであり、これら実務の内奥を知る極めて貴重な機会と言えるでしょう。

これら多彩なカリキュラムを通じて、法曹倫理全般について、実務と理論に根ざした広く深い理解に到達できるよう工夫を凝らしています。皆さんが、将来を担う法曹の卵として討議に参加なさる日を心待ちにしています。

実務選択科目

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民事弁護実務演習実務選択

準備中

検察実務演習実務選択

検察は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現するため、重大な役割を担っています。そして、その役割を果たすために、検察官には、捜査を行う権限、公訴権(公訴を提起すべきかどうかを判断して公訴を提起し又は公訴を提起しない処分をする権限)、公訴を提起した場合にこれを維持遂行する権限、裁判の執行を監督する権限等が法律上認められています。つまり、検察官は、刑事手続の最初(捜査の開始)から最後(刑罰の執行)までの、ほぼ全ての手続において重要な役割を担っていると言えるでしょう。

「検察実務演習」は、刑事司法におけるこのような検察官の果たすべき役割を意識しながら、刑事手続において生起する実務上の諸問題について、具体的な事案を題材として、検察官の視点から検討することで、刑事実務における刑事実体法及び刑事手続法の運用に関する理解、事実認定・証拠評価、問題発見・分析といった法曹に必要な能力の修得を図るとともに、捜査指揮や事件処理(公訴権行使)、立証計画等に関する検討を通じて、刑罰権の行使にあたって、検察官がどのような事項を検討し、どのような思考過程で結論を導くのかを学び、さらに、特殊な犯罪類型における捜査・公判上の問題点についての知見を得ることも目指す授業です。

授業は、主に仮設事例についての設問を題材として、実務家教員(検察官)が、双方向での対話形式で進め、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の向上を図ります。また、模擬取調べ、起訴状・冒頭陳述・論告の起案といった模擬体験を取り入れ、検察官の実務に対する理解を深めると同時に、法的文書の作成能力の向上も目指します。

検察官が刑事司法のほぼ全ての手続において重要な役割を担っていることを考えれば、刑事手続の様々な場面における検察官の検討事項・判断過程を学ぶことは、どの法曹を目指すとしても、刑事法・刑事実務に関する理解を深める上で有益でしょうし、そのような機会は、実務修習を除けば、法科大学院における本授業のような科目の履修以外にないと思います。また、本授業を通じて、これまで学んでこられた法律に関する理論・知識が、具体的な問題解決においてどのように役立つのかを実感して頂けると思います。

民事裁判演習実務選択

民事裁判演習は、民事訴訟における実務上の諸問題について、模擬記録を使用しながら、演習形式で検討し、民事訴訟制度や具体的な訴訟手続についての理解を確実なものとし、応用力・実践力を養うことを目的とする科目です。

ここでは、まず、模擬記録(訴訟の進行に応じて訴状等の主張書面や書証が順次配付されます。)をもとに、訴状の提出に始まって主張及び立証が順次積み重ねられて判決に至る過程を、手続の主宰者である裁判官の視点から理解することで、民事訴訟の運営の在り方を学びます。そして、民事訴訟手続の各段階において実務で問題となる事項について理論面・実践面から検討し、民事訴訟法の理解を深めるとともに、裁判官・弁護士として必要な実践的な能力・スキルを身につけ、これを実際に法廷に臨んだときに使いこなせることを目指します。

授業では、演習形式のほか実習形式を併用します。各授業において、予習レジュメと模擬記録に基づいて実務上よく起きる問題について双方向形式で討論を行うとともに、各手続の段階で、各自が訴状審査メモ、求釈明メモ・求釈明申立書、争点整理案等を作成するなどして裁判官・訴訟代理人として当然検討しなければならない問題を具体的に論じます。そして、これらの事前準備を踏まえ、受講者が訴訟代理人役や裁判官役となり、弁論準備手続における争点整理手続を実演し、その結果について全員で意見交換をします。その後、争点整理の結果に基づいて、訴訟代理人役の受講生が尋問事項書を提出した上、交互尋問を実演します。さらに、受講生全員が模擬記録の証拠や交互尋問の実演結果等に基づき、各人が適切と考える和解案及び判決案を作成・提出し、当該事案を和解により解決するとした場合の具体的な和解条項案や、判決となった場合の結論及びその理由について討論します。なお、和解に関しては、裁判官による和解勧試の時期や方法、和解手続の進め方、和解における心証開示の在り方等について、理論上・実務上の問題点を検討し、判決に関しては、裁判官が判決をする上で留意すべき点や望ましい判決書とはどのようなものかについて具体的に論じて、理解を深めることにします。

訴状によって開始された訴訟が、争点整理手続において、裁判官の訴訟指揮のもと、訴訟代理人の主張及び立証活動により争点が煮詰められ、争いのある事実について集中証拠調べが行われて判決に至るという過程を、訴訟手続の流れに従って具体的に学修することによって、民事訴訟法の定める手続がどうしてそのように定められ、実際にどのように運用されているか身をもって知ることができるでしょう。そのことにより、民事訴訟法の理論的な諸問題が、実務のどのような場面でどのように運用されているのかを正確に理解し、将来の法曹の仕事に役立ててもらいたいと考えています。

刑事模擬裁判実務選択

「刑事模擬裁判」は、事件記録教材を用いて、学生が、検察官、弁護人、裁判官のみならず、被告人、証人等も担当して行う、本格的な実習形式の授業です。

授業は、まず、単純な自白事件の公判手続を実演して、オーソドックスな刑事事件手続の流れを体感した後、裁判員対象事件として本格的否認事件に発展しそうな題材を基に、検察官役は起訴状作成に始まり、弁護人役は被告人から事情を聴取して応訴方針を決することから始めて、いずれも、実際の事件におけるのと同様に、各種の訴訟関係書類の作成や立証準備を行い、公判整理手続を経て、冒頭手続、証人尋問等の証拠調べ手続、論告・弁論などの公判審理を実施し、第一審判決に至るまでの各手続を実演します。

授業では、単に形式的に実務の運用をなぞるのではなく、自主的、主体的な取組こそが重視されます。既に学んだ刑事実体法、刑事手続法、事実認定論等の理解を前提に、それらを実際のケースにあてはめながら自ら実践をしていくことが求められており、その過程で、実務的視点から様々な問題の解決に取り組みます。刑事法、刑事実務を生きた形で理解し修得していくことが可能となります。

また、検察官、弁護人、裁判官という役柄ごとに、グループで検討して、準備、実演していくことになりますから、その検討・準備におけるグループ内での議論や、他グループとのやりとりを通じて、刑事法、刑事実務に対する理解を深めると同時に、法曹としてのコミュニケーション能力を涵養することが期待されます。

授業は、豊富な経験のある実務家が担当し、実演形式で行った上、手続進行に沿って、適宜講評を加えて議論をするとともに、実演終了後、実演において直面した手続上の重要問題と判決における事実認定を中心に、掘り下げた検討を行います。模擬裁判での役柄を担当することによって、実務の運用についての理解がより確実なものになることを願っています。

エクスターンシップ1実務選択

京都大学法科大学院では、学生が様々な法律実務の現場を実際に体験することのできる授業科目として、3つの種類の「エクスターンシップ」を開講しています。

そのうち「エクスターンシップ1」は、法律事務所(弁護士事務所)において、弁護士の日常の業務に触れ、その活動の実際を学ぶことができるものです。学生は、3年次への進級直前の春休み又は3年次の夏休み期間中に、受入れ先の法律事務所で、弁護士の指導・監督のもと、10日間、計80時間の研修を受けます。

本法科大学院では、「エクスターンシップ1」の受入れ先として、大阪、京都、名古屋、東京の多数の法律事務所と提携しており、平成17年以来、毎年約100名の学生がこれらの法律事務所において充実した研修を受けています。

研修の具体的な内容は、受入れ先の事務所の方針や受入れ時期によっても異なりますが、例えば、弁護士とクライアントとの協議や相談の場に同席して、質問や討議を行ったり、あるいは、弁護士の担当している事件について、事実関係の整理や関係する判例等の調査を行い、また各種の書面を起案する、といった活動を行います。

こうした研修を通じて、それまでの法科大学院の授業で修得した知識・能力が、実務の現場においてどのように生かされうるかを、身をもって知ることができます。逆にいえば、それまでに基本的な知識・能力をしっかりと修得できていなければ、「エクスターンシップ1」での研修の成果は十分に得られません。

また、実際の事件に触れながら様々な法律問題を検討することにより、実務法曹に不可欠な事実認定能力や問題発見能力が養われ、さらに、弁護士やクライアントと日々接することで、コミュニケーション能力の向上も図られます。弁護士の日常の活動を直に目にすることにより、弁護士の社会的役割や責任、倫理を自覚することにもつながります。

この科目を受講した学生の満足度は非常に高く、アンケートでも、「とても丁寧に指導していただいた」、「弁護士の実際の業務に触れることができ、有意義だった」、「様々な事件に関わることで、授業で勉強したことがどのように役に立つのかが分かった」、「法曹に必要な能力や自分に欠けている点を認識でき、今後の学習の指針を得られた」といった声が聞かれます。学生にとっては、自分が将来どのような法律家として活動していきたいかを考える貴重な機会にもなっています。

エクスターンシップ2実務選択

京都大学法科大学院では、学生が様々な法律実務の現場を実際に体験することのできる授業科目として、3つの種類の「エクスターンシップ」を開講しています。

そのうち「エクスターンシップ2」は、企業の法務部において、企業での日常の法的業務に触れ、企業活動をめぐる法律問題の実際を学ぶことができるものです。学生は、3年次の夏休み期間中に、受入れ先の企業で、研修指導者の指導・監督のもと、5日間、計40時間の研修を受けます。

本法科大学院では、「エクスターンシップ2」の受入れ先として、大阪、京都、東京の企業数社と提携し、毎年10名程度の学生を研修に派遣することとしました。

研修の具体的内容は、受入れ先の企業の方針によっても異なりますが、例えば、契約書の作成や審査をしたり、企業の関係部署や社外弁護士との協議や相談の場に同席して、質問や討議を行ったり、協議・相談の場で事実関係を聴き取って整理し、関係する法令・判例等を調査し、法的問題の整理や解決案の検討をする、といった活動を行います。

こうした企業法務に関わる様々な実践的活動を通じて、事実関係の整理能力や法的問題の発見能力が養われるとともに、紛争予防の視点も体得でき、さらに、コミュニケーション能力や交渉能力の向上も図られます。企業法務の日常的業務に触れることにより、法律家の社会的責任や倫理を自覚することにもつながり、また、社会における法律家の活動領域の広がりを実感することもできます。

海外エクスターンシップ実務選択

京都大学法科大学院では、学生が様々な法律実務の現場を実際に体験することのできる授業科目として、3つの種類の「エクスターンシップ」を開講しています。

そのうち「海外エクスターンシップ」は、ヨーロッパ諸国において実地研修を行い、各国の法制度・実務について学ぶことができるものです。学生は、国内での数回の研修の後、3年次の夏休み期間中に、教員の引率により、約2週間のあいだ渡航して、各国の施設等を訪問・見学します。

この科目は同志社大学が提供するものですが(引率教員は同大学の外国人教員)、平成27年から、京都大学と同志社大学の単位互換協定により、本法科大学院の学生(毎年10名程度)も受講することが可能になりました。

過去に訪問した国は、ドイツ、フランス、ルクセンブルク、イギリスです。ドイツでは、連邦憲法裁判所、連邦通常裁判所(最高裁)、地方裁判所、刑務所、国際法律事務所を、フランスでは、パリ裁判所(通常裁判所と破棄院)、フランス元老院、欧州人権裁判所、欧州評議会、欧州議会を、ルクセンブルクでは欧州司法裁判所を、イギリスでは、ロンドン王立裁判所、連合王国最高裁判所、連合王国議会、法曹院、法律事務所、ケンブリッジ大学などを訪問した実績があります。

この科目を受講する学生は、ヨーロッパにおける多様な法制度を現地で体感することにより、幅広い視野と国際感覚を身につける契機を得ることができ、さらに、外国法や国際的法律問題について学習を進める意欲も高められます。また、研究者を目指す学生にとっても、比較法研究の素地を作る上で貴重な機会になるでしょう。

選択科目I・II

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法政策分析選択I

この科目は、法が備える政治的機能について原理的に考察することを目的としています。この目的を達成するために、現在の構成では、マルクス主義からポストモダニズムにいたる法・社会思想の史的展開について講義しています。

したがって、一方で、この授業では社会思想を扱うことになります。具体的には、カール・マルクス、ルイ・アルチュセール、エルネスト・ラクラウ、シャンタル・ムフといった論者を取り上げ、それぞれの社会・政治理解の要点を解説しています。

他方で、この授業では法思想も扱うことになります。具体的には、先の一連の社会思想と密接な関係にある批判法学系の論者を取り上げ、その法理解を検討することを通じて、法(法廷)を政策論争のフォーラムとして理解する知的地平が開かれつつあるのではないだろうか、というメッセージを打ち出しています。

授業は講義形式で行っていますが、双方向性にも配慮しています。本法科大学院で法律学を勉強する際に、この講義で語られる内容に接する機会はほぼないであろうと想像しますが、受講生の皆さんからは鋭い質問やコメントを寄せていただき、その対応力の高さに感心しています。

現在の正統的な法理解の根底にある思想がリベラリズムであるとすれば、この授業が取り上げる思想の多くは、リベラリズムに対して批判的なスタンスをとっていると言えるでしょう。リベラリズム批判に対しても批判の目を向けねばならないことはもちろんですが、その上で、皆さんが、卒業後に法曹として指導的・創造的な役割を果たそうとするのであれば、このようないわば法にとっての〈他者〉の視点から法を眺め、現在の法実践を相対化する経験を一度はしてみることが必要だろうと考えます。

現代ドイツ法政理論選択I

日本の近代国家の法制度は西欧法の内容を素材にして作り上げられたという歴史があります。日本法がこのような歴史的経路を経たという事情からだけでなく、今を生きるグローバルな視野と感覚を養うためにも、日本法と関連付けながら外国法との比較を踏まえて法を学ぶことが、法科大学院においても一層重要になっています。

そうした外国法に関する科目の一つであるこの「現代ドイツ法政理論」では、現代ドイツの統治の仕組みを、その政治的動態にも関連付けながら理解することを目的としています。授業の進め方としては、最初の数回の授業でドイツの統治の仕組みについて概観した上で、その後、具体的なテーマとして、立法(立法権限と立法過程)、選挙(連邦議会選挙の制度と問題点)、政党(政党法制)、政府(連邦政府と政府樹立)、連邦憲法裁判所(憲法裁判をめぐる法と政治)などのテーマを取り上げ、国家機関の組織・権限等の制度的側面のみならず、現実の政治的な文脈における機能や影響、さらには機関相互の動態的関係の側面をも重視しながら、法と政治の関係について考察を加えています。

授業は、講義形式を採用しており、毎回配布する印刷資料とともに、パワーポイントのスライドも用いて、できるかぎり視角にも訴える授業方法をとっています。また、その都度のドイツの時事的なニュースも、本授業の理解を深める貴重な教材になりますので、当地の報道に依拠して適宜紹介し、解説するようにしています。また、一方的な授業ではどうしても受け身になってしまいますから、それを補うため、毎回授業の最後に、その回の授業で学んだこと・考えたことなどを自由に記すことのできるA5用紙1枚のレポートの作成を課しており、授業終了後に提出してもらいます。レポートに現れた主体的な学びの姿勢は、平常点評価の部分に反映させる一方、レポートに記された学生なりの授業内容の理解や疑問点などについては、次回以降の授業に活かすよう心がけており、それによって学生のより一層の積極的参加を図っています。

知的財産法1・2選択II

知的財産法は、人の知的・精神的創作活動の成果や営業上の標識(商品名や商品のロゴなど)という財産的価値のある情報を無断利用(模倣)から保護する法のことをいい、特許法・著作権法・意匠法・商標法・不正競争防止法など多くの法律で構成されています。知的財産は、現代の企業活動において重要な地位を占めているとともに、皆さんの日常生活にも深く関わっています。法科大学院では、このうち知的財産法の中心的な法領域である特許法と著作権法を、それぞれ「知的財産法1」と「知的財産法2」で扱います。ただし、その他の知的財産法領域も特許法・著作権法との比較を行う中で適宜参照しています。

「知的財産法1・2」を受講される方の中には、これまで知的財産法を勉強したことのない初学者も多数おられることから、授業は講義形式を中心としつつ、特許法・著作権法の基本概念・原理・制度の正確な理解を図るとともに、新たな法的課題に的確に対応するための法的思考力を涵養することに重点を置いています。

知的財産の創作・取引環境は、現代における情報関連技術の急速な進歩により、従来の特許法や著作権法が前提としていた状況から大きく変容しつつあります。知的財産法は、AIやIoTなど技術の進歩・多様化により次々と生み出される新たな法的課題に絶えずさらされています。このような現代的課題に適切に対処できる応用力を身につけることが知的財産法を学ぶ上での最も重要なポイントとなるのです。「知的財産法1・2」では具体的な紛争事例や最新のトピックを多数取り上げながら、特許法・著作権法に関する体系的知識を、具体的な事案にどのように当てはめ、問題解決にどのようにつなげるのかを考察する中で、このような現代的課題に十分対応できるだけの法的思考力を養います。

さらに、知的財産法に関する科目には、実務家教員が担当し、具体的な事例問題の分析を通して法律実務家に求められる事案分析能力・表現力といった実践的能力を養う「知的財産法事例演習」や、特許法・著作権法のみならず商標法・不正競争防止法など知的財産法の重要問題を、参加者による討議を通じてより理論的な見地から分析・検討する「知的財産法理論演習」も用意されています。「知的財産法1・2」は、このような発展的科目を受講する上での基盤となる基礎的知識・思考能力を身につけるための科目でもあります。

Introduction to European Private Law選択II

欧州連合(EU)では、EU域内で共通の規制枠組みを確立するために、様々な法領域における統一化の作業が進んでいます。この科目では、まず、EUの歴史(諸条約等を通じた形成)と組織(権限の分配、法源、諸機関等)を取り上げて説明した上で、EU法の中でも特に私法(主に契約法・消費者法)を扱い、その基本的知識について分析・検討します。

この科目は、上記の内容に沿って、3つの部分に分かれています。第1部では、教員による講義の形式で、EUの歴史と組織を紹介します。第2部ではヨーロッパ消費者法の平準化(消費者法に関する主な指令によるもの)、第3部ではヨーロッパ契約法の平準化に向けた試み(ヨーロッパ契約法原則やヨーロッパ共通売買法規則提案等)について、それぞれ学生による報告と質疑応答を中心として授業を進めます。いずれの部においても、EU司法裁判所やEU加盟国の国内裁判所の重要判例にも適宜言及します。

教員による講義、学生による報告と質疑応答はすべて英語で、双方形式で行います。そのため、学生には、授業に積極的に参加し、英語で意見を述べたり、報告をしたりすることが求められます。また、学生は、報告を終えた後、その概要をまとめた英語での短いペーパーを作成・提出します。

上記のような、専門的な内容に関する英語での講義、報告そして質疑応答を通じて、EUの歴史・組織とEU法(特にEU私法)に対する理解を深め、基本的知識を取得することができるとともに、英語での授業を理解し、英語で自分の意見を述べたり、プレゼンテーションを行ったりする能力を磨くことができます。専門用語等については授業中に説明しますので、過去に英語での法律科目を受講していることは必要となりません。

この科目は、将来、国際取引に関する業務を行うことに関心のある学生、海外留学(法曹資格取得後のものを含む)を検討している学生、および、日本法とEU法との比較を通じて前者に対する理解をより確実なものにしたい学生等に特におすすめです。法曹界・法律業務の国際化が益々進む中、この科目で身に付けた能力を活かして、皆さんが実務家としてより幅広く活躍できることを強く願っています。